1、最近の労働安全衛生関連統計

(1)労働災害職業病の年次推移

 図1に事業所規模100人以上の度数率、強度率の年次推移を示す1)。度数率は100万延実労働時間当たりの労働災害の死傷者数で、災害頻度の指標となる。強度率は1000延実労働時間当たりの労働損失日数で、災害重傷度の指標となる。労働損失日数は、死亡災害の場合は7500日、身体障害を伴うものはその等級により50日から7500日まであり、身体障害を伴わないものは「休業日数×300/365」で計算される。

 2005年では、総合工事業を除く事業所では度数率1.95、強度率0.12、総合工事業では度数率0.97、強度率0.14で、推移としては横ばいの状態である。

図1 度数率、強度率の年次推移図1に事業所規模100人以上の度数率、強度率の年次推移を示す1)。度数率は100万延実労働時間当たりの労働災害の死傷者数で、災害頻度の指標となる。強度率は1000延実労働時間当たりの労働損失日数で、災害重傷度の指標となる。労働損失日数は、死亡災害の場合は7500日、身体障害を伴うものはその等級により50日から7500日まであり、身体障害を伴わないものは「休業日数×300/365」で計算される。

 2005年では、総合工事業を除く事業所では度数率1.95、強度率0.12、総合工事業では度数率0.97、強度率0.14で、推移としては横ばいの状態である。

 労働災害は、労働時間が長いほど発生する確率が高くなることは自明であろう。従って、労働時間を計算項目に入れた度数率、強度率は統計としては正確である。しかし、計算は面倒である。

 図2は、死傷者1000人率と業務上疾病1000人率の年次推移である2)。1000人率とは労働者1000人当たりの発生数を示す。業務上疾病、いわゆる職業病のことであるが、1992年からほぼ0.2のまま推移している。死傷者数は2004年で2.5あたりである。おそらく、今後このあたりで推移するものと思われる。これがこの本のタイトルで言う「2の壁」である。どれくらい続くか分からないが、しばらくはこの「2」のところを推移していくものと思われる。もちろん、業種・事業所によっては「2」より高いところもあろうし、低いところもあるだろう。

図2 死傷者・業務上疾病1000人率の年次推移

 全国的には「2」であるが、それぞれの事業所で克服すべき「壁」を設定し安全衛生活動を展開していただきたく、本書を著した次第である。


(2)休業4日以上労働災害1000人率の推定3)

 既に述べたが、1000人率というのは労働者1000人当たりの災害発生件数を示す。細かなことをいえば、労働者1000人当たりといっても1日8時間労働で終わるところもあれば毎日2時間くらいの残業があって1日10時間労働のところもあるかもしれない。その意味では、労働時間が長い方が災害に遭遇する確率も高くなるだろうから、単純に労働者1000人当たりの災害件数を計算したのでは実態を正確に反映したものでないことは察しがつく。そのようなことから厚生労働省の災害統計は労働時間当たりの件数を計算した度数率や強度率で発表されている。これは労働実態を反映した災害統計である。しかし、われわれ行政や事業所外の人間が事業所の労働時間を把握することは困難であり、その点1000人率は正確さに弱点はあるが計算は手っ取り早いし、理解もしやすい。事業所の労働者数と災害発生数が分かれば、個別事業所の1000人率はすぐに計算できるので、その事業所の災害発生レベルを他事業所と比較しやすい。そもそも、例えば、強度率が「1000延実労働時間当たりの労働損失日数」といわれて、どの程度の災害レベルかすぐに察しのつく人は少ないと思う。それよりも、「被災者一人当たりの休業日数」といわれれば理解しやすい。

 さて、それはいいとして図3に従業者規模別・産業別休業4日以上労働災害1000人率を示す。林業、漁業、農業、鉱業など第一次産業の発生率が高い。林業は特に高い。従業者規模では9人以下あるいは300人以上の規模のところが相対的に低く、中小企業の代表的存在ともいえる30-49人の規模の事業所が最も発生率が高くなっている。全産業としては逆U字型の発生率であるが、例えば、建設業では規模が小さいほど発生率が高く、情報通信業では規模が大きいほど発生率が高い。

図3 従業者規模別休業4日以上労働災害1000人率

 図4に示すように年齢階級別に観察すると、19歳以下もしくは60歳以上の階層の発生率が高い。経験の浅さや生理的能力の衰えを反映しているのであろうか。おおむねU字型の発生率を示すが、運輸・通信業では若年者がやや高く、金融・保険業では高齢者が高い。

図4 年齢階級別休業4日以上労働災害1000人率


(3)平成17年労働安全衛生基本調査結果4)

 厚生労働省は5年ごとに労働安全衛生基本調査を行っている。最近では平成17年と12年に行われた。ここではその結果を示す。

 図5にこの1年間に労働災害があったと答えた事業所割合を示す。全体の推移としては労働災害があったとする事業所割合はわずかに減少している。事業所規模が50-99人、100-299人の中小企業に災害があったと答えた事業所が増加している。これはある意味、1000人率で示したように中規模の事業所の1000人率が相対的に高いことと符合している。

 一方、事業所規模が大きいほど労働災害があったと答えた事業所割合が大きい。これは先に示した1000人率と矛盾するようにも見えるが、例えば、事業所規模1000人のところは10人の事業所の100社分であり、1社当たりの災害頻度としては高くなることを示している。これは1000人率とは統計の内容が異なる。

図5 この1年間に業務上災害があったと答えた事業所割合

 図6に安全管理者・衛生管理者選任、安全衛生委員会等の設置事業所割合を示す。労働安全衛生法上常時50人以上の労働者を使用する事業者は一部の業種を除いて安全管理者を選任し、または全業種で衛生管理者を選任し、安全委員会または衛生委員会、あるいは安全衛生委員会を設置して事業所の安全衛生問題を調査・審議させることが義務付けられている。図より明らかなように、事業所規模が小さいほど選任あるいは設置割合が低く、中小企業ほど安全衛生管理体制が手薄な状況がうかがえる。

図6 安全管理者・衛生管理者選任割合、安全衛生委員会等設置割合およびこの1年間に災害があったと答えた事業所割合

 一方、推移としては平成12年に比べ平成17年は全体的に割合が高くなっており、労働安全衛生管理体制が進んだようにも見える。

 また、既に述べたようにこの一年間に労働災害があったと答えた事業所割合は全体として減少しており災害対策が進んだようにも見えるが、事業所規模では、50-99人、100-299人、500-999人の事業所は災害があったとする事業所は増加している。この当たりの状況を図7でもう少し詳しく見たい。

 図7は、安全管理者・衛生管理者選任、安全衛生委員会等設置している事業所割合とこの一年間に労働災害があったと答えた事業所割合について平成17年から平成12年の値を差し引いた値を図示したものである。安全管理者・衛生管理者選任、安全衛生委員会等設置割合がプラスの領域にある場合は安全衛生管理体制が充実の方向へ変化したことを意味し、労働災害についてマイナスの領域にある場合が災害発生事業所が減少したことを示し、安全衛生管理の効果があったことを示唆する。

図7 事業所規模別安全衛生管理体制と業務上災害ありの関係

 さて、図7に示した50人以上の規模の事業所について極めて大雑把な言い方をすると、どちらかというとプロットはプラスの領域にあり、安全衛生管理体制を充実させたが災害もあったとする事業所が増加していることを示している。特に100-299人の事業所では安全衛生管理体制を充実させた事業所割合以上に労働災害があったとする事業所割合が多い。このことは既存の安全管理者や衛生管理者あるいは安全衛生委員会等の活動だけでは労働災害を減少させることが難しいことを示唆している、と言えば言い過ぎであろうか。1000人率では頭打ちの状態である。

 さて、既存の安全衛生管理体制の下でさらに改善効果を期待できるかどうかはよく分からないが、次に安全衛生マネジメントシステム(以下、OSHMSという)の導入について考えてみよう。

 図8は、OSHMS導入の事業所割合とOSHMSを導入した事業所で労働災害やヒヤリハットが減少したと答えた事業所割合を事業所規模別に示したものである。OSHMS導入事業所は、1000人以上の事業所で40%弱、10-29人の事業所で5%強で、事業所規模が小さいほど導入割合が低い。また、OSHMS導入済みの事業所で労働災害やヒヤリハットが減少したと答えた事業所は1000人以上の事業所で60%強、20-29人の事業所で90%弱であった。このことは、事業所規模が小さいほどOSHMS導入の効果を実感しやすいことを示している。しかし、100-299人の事業所の改善効果を示す割合は不連続的に低い。

図8 事業所規模とOHSMS導入および労働災害減少との関係

 図7でも述べたように、100-299人の事業所では安全管理者・衛生管理者を選任し安全衛生委員会等を設置している事業所が増加しているにもかかわらず労働災害を経験している事業所も増加していた。ということは、100-299人の規模の事業所では、安全衛生管理に何か特別の難しさでもあるのだろうか。

 図9は労働災害ヒヤリハットの減少事業所割合とヒヤリハット体験を上司や会社に報告し対策がとられたと答えた労働者割合の関係を産業別に示したものである。卸売小売業、飲食店宿泊業、サービス業はOSHMSを導入して労働災害ヒヤリハットが減少したと答えた事業所割合が90%以上で、他産業に比べ高い。これらの産業ではOSHMS導入の効果が現れやすいことを示唆している。一方、電気ガス熱供給水道業、建設業、運輸業ではその割合が低く、相対的にOSHMSの効果が現れにくいことを示唆している。しかし、これらの産業では労働者がヒヤリハットを体験し、それを上司・会社に報告し何らかの対策がとられたという労働者割合が高い。想像するに、図9は、卸売小売業、飲食店宿泊業、サービス業は災害原因の解決が比較的容易なものがまだ多く残されているが、電気ガス熱供給水道業、建設業、運輸業では災害対策が比較的難しいものが残っていることを示唆しているのかもしれない。製造業はその中間である。

 情報通信業はプロットが他の産業とかけ離れたところにあり、災害要因そのものが他産業に比べ少ないことを示しているのかもしれない。

図9 ヒヤリハット体験報告と災害減少との関係

 図10にヒヤリハットの内容(複数回答)を示す。業種により特徴があるが、最も多いのは「物の置き方、作業場所の欠陥」であった。これは日本の伝統芸とも言える「整理・整頓」が未だに産業現場では大きな課題であることを示唆している。

図10 ヒヤリハットの内容

 次に多いのは「作業方法の欠陥」で、作業手順あるいは作業標準の策定や安全衛生教育の不備と結びついていると思われる。建設業、運輸業では「自然的不安定な状態」が多いことが特徴である、また、運輸業は「第三者(物)による不安全な状態」も多い。

 「物の置き方、作業場所の欠陥」や「作業方法の欠陥」は「必然性の洞察」ができない安全衛生管理上の弱点によるものと思われる。


(4)脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況5)

 図11に脳・心疾患、精神障害等の労災請求件数およびその認定率の年次推移を示す。脳・心疾患と精神障害等ともに請求件数は増加している。平成13年12月に脳・心疾患の認定基準が改正されたため平成14年に大きな認定率の増加を見せた。精神障害等は請求の増加にかかわらず認定率は減少している。いずれの疾患も死亡または自殺した場合は認定率が高い。
 人定率は「認定件数÷請求件数×100」で計算した。

図11 年次別労災請求件数および認定率の推移

 図12に産業別の請求件数および認定率を示す。どの産業もだいたい脳・心疾患の方が精神障害等よりも多いが、医療・福祉、情報・通信業、教育・学習支援業、金融・保険業については精神障害等の方が請求件数が多い。

 認定率は、請求の場合と同じようにだいたいにおいて脳・心疾患の方が精神障害等よりも高い。しかし、建設業、医療・福祉においては精神障害等の方が認定率が高く、これはこれらの業種の労働態様の特徴を示すものだろうか。建設業の精神障害等の請求件数は脳・心疾患の2分の1以下であるが、逆に認定率は高い。

図12 業種別労災請求件数および認定率

 職種別に見ると、図13に示すように運輸・通信従事者、技能職の脳・心疾患の請求が多い。一方、専門技術職や事務職は精神障害等の請求が脳・心疾患よりも多い。認定率はどの職種も脳・心疾患の方が高いが、運輸・通信従事者、専門技術職の精神障害等の認定率が他職種に比べるとかなり高い。

図13 職種別労災請求件数および認定率

 年齢階級別請求件数および認定率を図14に示す。請求件数は、脳・心疾患が50代で高いのに対し、精神障害等は30代で高い。脳・心疾患の認定率は年齢とともに低下しているが、精神障害等はいずれの年代もあまり変化はない。

図14 年齢階級別労災請求件数および認定率